No-2 生物学的連続の確認

NEXT(生物学の枠内で説明できないこと)

確認事項 - 遺伝子型と表現型

最初に、生物一般における種の近縁度について確認しておきます。

生物種の近縁度を測る一番の指標は、遺伝子DNAの塩基配列の違いだと言って間違いないでしょう。
およそ36億年前と言われる原始海洋で、たった1個の自己複製分子から生物は始まりました。それがRNAであったか、タンパク質様のものであったか、それは分かっていませんが、いずれにしてもその時点で塩基配列は当然1種類しかなかった筈だし、その後の種分化の過程でも、分岐直後の段階では塩基配列は同じだった訳です。
共通祖先から分岐した後での時間経過とともに、突然変異による塩基置換が蓄積されて行きます。その度合いを比較することで、種同士の近縁度と分岐年代が推定できます。(※ 註‐分子進化学と分子時計

同時にそのDNA塩基配列変異の度合い=遺伝子型と、外見上の違い=表現型は、全体的には概ね正の相関関係を示してきました。環境の違いによる可塑性や生物の多様性等のローカル性を考慮するとしても。

同時にそのことによって、同じ種に属する個体は、仮に地域や集団が違っても、その行動様式には種としての共通性が見られます。身体の造りによって行動様式も制約を受ける訳で、そこに共通性を示すのは、言わば当然のこととして承認されていた訳です。
つまり或る地域、或る集団で採取された個体サンプルの観察結果は、その種全体をほぼ代表するものと考えて大きな問題は無かったのです。

細かいことを抜きに大雑把に言えば、「動物の形質と行動は遺伝子DNAの塩基配列によってコードされている」、と言って差し支えなかった訳です。
少なくとも、人間の出現するまでは

ヒトとして、生物との連続性

最初に、遺伝子的指標から見た時、人間がいかに「サル的」であり、他の全ての生物と共通の連続性を持っているかを見てゆきます。

単なるサルの一種に過ぎない、生物学的人間

人間がヒトとして生物の一種であることは、今バチカンでも否定できない事実です。
代謝、細胞分裂、繁殖、遺伝等、当然生物としての共通の土台を持っています。それだけでなく、遺伝子DNAの塩基配列を比較した時、生物学的には人間が「殆どサル」だと言うことが、近年ますます明らかになっています。

keitoju.gif

ヒトとチンパンジー、遺伝子的差異は1.23%

現在、人間だけでなく様々な生物のゲノム(遺伝子DNAに基づく、その生物の遺伝情報1セット)が解読されてきています。
2011年現在、最新の解析ではヒト(※ 註- ヒト)と、チンパンジー、ボノボ(※ 註-ボノボ)との塩基配列の差異は1.23%と出ています。逆に言えば99%は同じだと言うことです。

※ 1.23%と言っても解析の方法や場所によって違いは出てくるでしょう。又コンマ以下の数値にあまり意味は無いかも知れません。
しかし一応の基準には間違いないし、一々断りを入れながら書く訳にも行きませんから、以下、この数値を使います。
遺伝的近縁度を示す、言わば象徴としてご理解下さい。

同じ解析結果の中で、オランウータンでは2.8%、アカゲザルでは6-7%の違いが出ています。残念ながらゴリラのデータが無かったのですが、それ以前の知見から見ておよそ2%強位でしょう。

上右図はやや古いデータのもので、最新分析に比べ僅かに塩基配列の差を多く見積もっています。しかし全体の傾向は概ね実態を反映しています。
この図の中で「旧世界ザル」と表記して有る中に、アカゲザル、ニホンザル等が含まれます。この2種は、殆ど同種と言っていい程に近縁です。

この図を見て分かることですが、ヒトと別れてからしばらくして、チンパンジーとボノボが分岐していることです。チンパンジー・ボノボの2種は、ヒトと分岐した後の共通祖先から、およそ230万年前に分かれたとされています。ヒトはチンパンジー・ボノボよりもサルとして、言わば内側に位置していると言えます。
この事実、及び塩基配列の差異が示す注目すべき点として、チンパンジーやボノボから見た時、ゴリラやオランウータン、アカゲザルやニホンザルに比べて人間の方が遥かに近縁だと言うことです。

人間は今でも、生物学的には殆どサルなのです。
このことを先ずここで確認しておきます。
 

人類の遺伝子的均質性

更に地球上68億全ての人類の、遺伝子的バリエーション、バラつきは0.07%の範囲に収まるのだそうです。つまり人種や肌の色等の違いを超えて、極めて均質だと言うことです。
アフリカ原住民集団の遺伝子バリエーションは、平均より幅広く、又チンパンジーの遺伝子バリエーションは、人間に比べ遥かに広いと言うことです。
これは五万年前とも言われる「出アフリカ」に際し、アフリカに残ったおそらく数千人規模の集団と、これもおそらく数百人規模の「出アフリカ」集団が今の現生人類の祖先となった、いわゆるボトルネック効果によるものかと思われます。

この点でも人間だけの特異性を述べることができます。何故なら、人間ほど外見や行動、生息域などの点で、バラエティ豊かな種は無いからです。
このページ冒頭で述べた生物一般の確認事項では、同じ種であれば(遺伝子を反映した身体の作りに制約されて)生息域はある程度限られるし、似通った行動を見せます。
しかし人間の場合、赤道から極地近辺まで生息域を広げているし、その行動は本当に様々です。

ゲノムが要請する「有るべき姿」と、現実との巨大なギャップ

遺伝子型と表現型

ゲノムから見た人間の、「殆どサル」度と、人間集団内の遺伝的均質性を見てきました。

遺伝子型と表現型の関係には多分に環境の違いによる可塑性が有るだろうし、塩基配列1.23%の違いと言っても、上記したようにそもそもコンマ以下の数値に意味は無いかもしれません。
しかし本来そこに正の相関関係が認められることは進化生物学上、普通に承認されていることです。

事実今は、別の種として分類されているチンパンジーとボノボは、遺伝的な近縁度を反映した表現型の類似性で、つい最近まで同じ種の亜種だとされ、ボノボはピグミーチンパンジーの名で呼ばれていました。
チンパンジーとゴリラとの、或いはオランウータンとの形質上の違い=表現型の違いも、その遺伝子型の違いで説明が付くでしょう。ニホンザルとの関係にしても同じことです。

これが生物一般に見られる、遺伝子型と表現型の正の相関関係です。
若しこの相関関係が大きく食い違っているとしたら、そこにはやはり特別な説明が必要でしょう。

人間と他のサル達の間に見られる、遺伝子上の近縁度と、人間だけに見られる形質と行動様式の巨大な違いこそ、この「特別な説明」を要することだと考えます。実際に進化人類学の最大のテーマが、この生物学的な近縁度と人間だけの特異性のギャップの間に何が有るか?、その解明と説明であるかのように思われます。

次にこの「特別な説明」をめぐって、進化生物学陣営(の一部)が苦労している様子を垣間見て行きます。



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